溶融塩の応用の歴史は古く、1886年アメリカのC.M.ホールとフランスのP.L.T. エルーが開発した、アルミニウム電解精錬法(ホール・エルー法)は特に有名です。19世紀から20世紀にかけて、溶融塩技術はアルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、希土類金属などの電解精錬や、フッ素の電解製造などへの応用を中心に発展してきました。
一方で、わが国ではオイルショックを契機に産業構造が変容し、1980年代なかばには、溶融塩技術を先導してきたアルミニウム電解工業の国内生産はほとんどストップして、斯界の多くの研究者・技術者に暗雲を投げかけました。溶融塩科学・技術の屋台骨を支える産業基盤を失った打撃の大きさには計り知れないものがありました。
しかし、1990年代に入って、溶融塩の資源・エネルギー・環境分野への応用に新たな展望が開け、国内外に新しい潮流が生まれました。さらに21世紀に入ると、室温溶融塩(イオン液体を含む)の開発と応用が活発化するとともに、その応用の可能性は無限の広がりを見せています。
ここで、「溶融塩」というカテゴリーについて考えてみると、狭い意味では「有機塩、無機塩を問わず、塩が融解してできた、イオン性を帯びた液体」ということになります。
このような狭義の「溶融塩」について、その一般的な特徴を挙げると、次のようになります。
- 高温でも蒸気圧が低く、さらさらした液体。
- 化学的に安定、電気化学窓が広い。
- 種々の物質をよく溶かし、溶解度が大きい。
- 導電率が高い。
- 放射線に対する耐性に富む。
また、「塩」は、酸と塩基が中和して生成したものと定義されますが、例えば水酸化ナトリウム(固形苛性ソーダ)が融解したものも同様にイオン性融体の性質を示すので、この種の融体も「溶融塩」ととらえることができます。また、ある種の溶融塩と金属は相互に溶解して、イオン導電性と電子導電性を合わせ持った特異な溶液になることが知られています。このように、酸や塩基が融解したもの、水和物融体、分子性融体、さらには液体金属、液体合金までも含めて、これらを総称して「溶融塩」とよぶこともできます。
アイ’エムセップ株式会社では、このような優れた機能性媒体である「溶融塩」を電解浴として用い、多種多様な電気化学反応を利用して各種材料の高機能化や新材料の創製を行う「溶融塩電気化学プロセス(MSEP:Molten Salt Electrochemical Process エムセップ)」を技術の柱として、多岐にわたる研究開発を進めています。
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